探求学習のエビデンスマップ(探究学習の“学力・教育的価値”)
- 山中裕太

- 8月12日
- 読了時間: 7分
更新日:8月14日
「探究は学力に関係するのか?」――保護者の方から最も多い質問に、国内外の研究で答えます。本記事では、全国学力調査やPISAの相関、メタ分析やRCTが示す因果の手がかりを整理し、「無誘導の活動だけ」は弱く、ガイド付き探究×明示的指導のブレンドが要だという結論を分かりやすく解説します。加えて、自己効力感・高次思考・論証といった“教育的価値”にも着目。最後に、まちかど学舎が実践する明示→探究→説明→定着の設計も紹介します。
【調査者(発表年, 媒体)|対象年齢(対象国・地域)|調査方法 結果】で記載しています。
また、専門用語は初出で1行解説、記事末に「用語メモ」を添えています。

(1) 相関研究(国際・国内の大規模データ)
OECD(2016, PISA2015 Vol.II)|15歳(多国・地域)|国際学力調査の二次分析(用語:既存の大規模データを別視点・手法で再分析)
結果:生徒が報告する**探究的活動の“頻度だけ”が高いほど理科得点が低い相関(用語:原因は断定しない関係)**が多国で観察。**学級の規律(用語:学びに必要なルール・手順・準備が整った状態)**が弱いほど負の関連が強まる一方、明示的指導(用語:語彙・概念・手順を先に示す教え方)やフィードバックとブレンド(用語:明示×探究の往復)された授業では負の関連が小さくなる/消える。自己申告ゆえ“頻度”は測れるが授業の質は測りにくい点に注意。
Mostafa(2018, The Science of Teaching Science)|15歳(PISA2015)|再分析
結果:探究“単独”の高頻度は得点と負。ただし適応的指導(用語:理解度に応じて支援量を調整する教え方)やフィードバック、明示的指導と組み合わせるブレンドで、知識問題の正答率が改善しつつ楽しさ・自己効力感も上向く。媒介要因として授業の秩序(=学級の規律)と課題の明確さが重要。
全国学力・学習状況調査(2023–2024)|小6・中3(全国)|質問紙×教科得点の関連分析
結果:「主体的・対話的で深い学び」への取組度が高いほど平均正答率が高い傾向(=相関)。**ウェルビーイング(用語:満足度・安心感・自己効力感などの健やかさ)**とも正の関連。低SES(用語:社会経済的背景が低い)でも類似傾向が見られる。横断データのため因果は断定せず、学校・学級の実装の質にばらつきがあることも示唆。
(2) 因果の手がかり(メタ分析・理論)
Minner, Levy, Century(2010, JRST)|K–12|研究統合(1984–2002)
結果:探究的理科は学習成果に小〜中の正効果。特にデータに基づく結論づけや説明づくりを含む設計で効果が高い。“探究”の定義幅と**設計の質(支援物・評価・教材整備)**が効果の大小を左右。
Furtak ほか(2012, RER)|K–12|メタ分析(用語:複数研究の結果を統合して平均効果を推定)
結果:ガイド付き探究>従来法で中程度の効果。**足場(スキャフォルディング:用語=手順カード・例・発問テンプレ等で段階的に支援)**があるほど効果が安定。無誘導に近い実装では効果が縮小/消失しやすい。
Lazonder & Harmsen(2016, RER)|K–16|メタ分析(72研究)
結果:支援あり探究は学習過程/遂行/最終成果すべてで有意優位。**効果量d(用語:0.2小/0.5中/0.8大の目安)**は中程度が多い。ガイダンスのタイプ(ヒント・フィードバック・例示・部分手順)と量が決定要因。
Alfieri ほか(2011, JEP)|K–16|メタ分析
結果:無誘導の発見学習<明示的指導。一方、支援付きの“強化された発見/探究”は明示的指導に匹敵〜上回る場合も。=十分な支援を前提にすれば探究アプローチは有効。
Kirschner, Sweller, Clark(2006, Educational Psychologist)|理論+レビュー
結果:初心者への最小限ガイダンスは非効率。ワーキングメモリ負荷(用語:一時的に保持・処理する情報の負担の大きさ)の観点から、前段の明示と段階的な足場の必要性を論証。初学者/熟達者の差にも注意喚起。
(3) 介入研究(因果に近い:RCT/準実験)
Harris ほか(2015, JRST)|米・中学理科(6年)/42校|クラスターRCT(用語:クラスや学校など“かたまり”単位で無作為割付)/PBIS教材
結果:科学概念の理解と科学的実践(仮説・測定・説明)で介入群が有意に上回る。PD(用語:教員研修)と教材パッケージ、評価のルーブリック(用語:達成基準を段階で示す評価表)をセット導入した条件で再現。**実施忠実度(用語:設計どおりの実行度)**が高いクラスほど伸びも大。**形成的評価(用語:途中で理解を見取り、次の指導に生かす評価)**を併用。
Saavedra ほか(2021・2022)|米・AP科目(用語:高校で履修する大学レベル科目。AP試験の得点で大学単位認定の可能性)/高校生・5学区|クラスターRCT(KIA:Knowledge in Action(用語:AP科目をPBL+教材+PDで再設計した介入))
結果:AP3点以上の取得率が有意に上昇し、2年追跡でも持続。受験レベルでも、明確な評価基準・教材・PDを伴う設計されたPBL/探究は得点に効く。多様な学校環境で再現性が確認。
Duke ほか(2020, AERJ)|米・小2(低SES地区)|クラスターRCT(Project PLACE:社会×読解×PBL+PD)
結果:社会科知識と情報読解で介入群が有意に伸長。書く力は平均差が小さめだが、実施忠実度が高い教師ほど効果が大きい。短期でも**転移(用語:学んだことを新しい場面に使うこと)**が確認。
(4) 教育的価値(高次思考・論証・態度)
Mostafa(2018, 再分析)|15歳|PISA2015
結果:理科の楽しさ・自己効力感など態度に正の関連。学力面の効果はブレンド(明示的指導・規律・フィードバック)を条件に現れやすい。=**「学び続ける力」**の側面で探究が効きやすい。
Abrami ほか(2015, メタ分析:批判的思考の明示指導)|小〜大
結果:批判的思考が有意に向上。“結論→根拠→反例→限界”という論証の構造を明示的に教えることで、説明の質と誤概念修正が進む。探究の**回収(説明・振り返り)**工程を強化。
Antonio & Prudente(2023/2024, メタ分析:HOTS)|小〜大
結果:探究アプローチがHOTS(用語:高次思考=分析・統合・転移など)に大きな正効果。評価課題が思考を要する設計であるほど効果が増幅。
Yildirim ほか(2022, メタ分析:科学的論証)|小〜大
結果:論証介入は学力・態度に中〜大効果。反証や限界の扱いまで含む授業は、説明の明瞭さと批判的思考を押し上げ、総合型選抜の口頭試問にも直結。
EEF(英国, Toolkit:研究統合の実務ガイド)|小〜中
結果:協働学習で“約5か月分”、メタ認知・自己調整で“約7〜8か月分”の学習増相当。課題の構造化・役割分担・振り返りといった支援成分を丁寧に入れると効果が跳ねる。
(5) 日本の設計知見(CoREF:知識構成型ジグソー)
東京大学CoREF(2010–)|小〜高|KCJ(用語:知識構成型ジグソー=根拠ある説明づくりに特化した協働学習の型)
結果:問いの二度書き/根拠ある説明/全体への再表現という説明づくり特化の型で、説明の質(根拠の適切さ・概念の連結)や協働の質、動機づけが改善。日本の授業文化(ノート・板書)と親和性が高く、“活動だけ”に寄りがちな探究を説明・評価へつなぐ“橋”として機能。
(6) まとめ
“活動だけの探究”は×:頻度だけ上げると得点は下がりがち。
“支援つき探究+明示的指導”は◯:メタ分析・RCTで小〜中以上の正効果。鍵は教材・PD・評価(形成的)まで含む設計の質。
教育的価値は強い:自己効力感・興味・高次思考・論証が伸び、志望理由・面接など**「語れる経験」**の土台になる。
[用語メモ]本記事で使った専門語(完全版)
相関:2つの指標が一緒に増減する関係(因果は断定しない)。
二次分析/再分析:既存の大規模データを別視点・手法で再分析すること。
明示的指導:語彙・概念・手順を先に示す教え方。
適応的指導:学習者の理解度に応じて支援量を調整する教え方。
学級の規律:学びに必要なルール・手順・準備が整った状態。
ブレンド:明示的指導×探究を往復する授業設計。
足場(スキャフォルディング):手順カードや例示などで段階的に支援すること。
メタ分析:複数研究の結果を統合し平均的な効果を推定する方法。
効果量d:効果の大きさの指標(0.2小/0.5中/0.8大)。
RCT:無作為に群分けする比較試験で因果推定に強い研究デザイン。
クラスターRCT:クラスや学校など“かたまり”単位で無作為割付するRCT。
実施忠実度:プログラムが設計どおり実行された度合い。
形成的評価:学習途中に理解を見取り指導を調整する評価。
ルーブリック:達成基準を段階で示した評価表。
ワーキングメモリ負荷:一時的に保持・処理する情報の負担の大きさ。
ウェルビーイング:満足度・安心感・自己効力感などの総合的な健やかさ。
低SES:低い社会経済的背景(家計・親学歴等)。
PBL:プロジェクト型学習。課題解決・制作を核に学ぶ。
PD:Professional Development(教員研修)。
HOTS:高次思考(分析・統合・転移など)。
転移:学んだことを新しい場面に使うこと。
KCJ:知識構成型ジグソー。根拠ある説明づくりに特化した協働学習の型。
AP科目:高校で履修する大学レベル科目。AP試験の得点で大学単位認定の可能性。
KIA:Knowledge in Action。AP科目をPBL+教材+PDで再設計した介入プログラム。

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