まちかど学舎が育む『ネガティブ・ケイパビリティ』
- 山中裕太

- 8月13日
- 読了時間: 4分
「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉をご存じでしょうか。
詩人ジョン・キーツが提唱し、不確実性や曖昧さを抱え、答えを急がずにその状態を受け入れる能力のことを指します。

(1) キーツとネガティブ・ケイパビリティ
私はディルクにさまざまなテーマで論争ではないが長い説明をした。私の心の中で数多くのことがぴたりと符合しハッとした。特に文学において、人に偉業を成し遂げしむるもの、シェイクスピアが桁外れに有していたもの――それがネガティブ・ケイパビリティ、短気に事実や理由を求めることなく、不確かさや、不可解なことや、疑惑ある状態の中に人が留まることが出来る時に見出されるものである。(キーツが弟に宛てた手紙の抜粋)
キーツは、シェイクスピアのような偉大な芸術家がこの能力を持っていたと信じていました。彼にとって、詩は不確実で、理解するのが難しいものであり、ネガティブ・ケイパビリティは、そのような世界を表現するために不可欠な能力でした。詩人や芸術家は、すぐに答えを求めたり、確実性を追求するのではなく、不確実な状況や曖昧な感情に耐え、それらを深く探求することで、より深い真実や理解に到達できると考えたわけです。
(2) 即答・即決を求められる時代
私たちは、今【即答・即決を迫られる】世界に生きています。会議では「結論は? 要するに?」と急かされ、SNSやチャットでは少しのあいだ目を離せば追いつけなくなるほどの高速往復。子どもたちも同様です。「将来の夢は?」「やりたいことはなに?」といつも問われ、なにかわからないことがあればすぐに「ググる」。このような環境で生きる私たちは、もう待てなくなっています。

一方で、人生で出くわす様々な問題は、快刀乱麻を断つがごとく白黒はっきりとつけられないようなことばかりです。どこの学校へ進学するのがよいか、どんな人間と友人関係を築けばよいのか、喧嘩した時にどう解決したらよいのか、どの企業に就職するのがよいか、だれと結婚するのか(もしくはそもそもしないのか)、家は賃貸でいくのか/ 購入するのか、マンションがよいのか/ 戸建てがよいのか/ 実家がよいのか 人生で誰もが出くわすような出来事に対してであってもそれらに即答することは難しいものです。それは言ってしまえば当たり前の話です。二者択一のうち、明らかにいずれかと選べるケースなんてほぼありません。AにもBにもメリットはあるし、AにもBにもデメリットがあり、さらにそれらが拮抗しているわけです。そもそも、二者にまで絞れているのであれば、まだ話は単純かもしれません。実際には山のように選択肢があります。また、所与の選択肢から選択するという解決策だけではなく、折衷案もあり得るのです。
世の中の問題に目を向けてみても、即答できるような単純なものなどほとんどありません。即答できるような類の問題はとうの昔に解決されているでしょう。新潟県の海岸浸食はまさに即答できない問題です。

新潟県は「水の都」として知られています。信濃川と阿賀野川という二つの大河が流れ込み、市内には数多くの運河や水路が張り巡らされているため、水の恩恵を強く受けています。
現在、新潟県では海岸浸食が発生しています。海岸浸食とは、「砂浜が波によって削られて流出し、海岸線が後退する現象」を指します。さて、新潟県で海岸浸食が発生している原因はなんでしょう。県の公式見解では、大河津分水路開削に伴う信濃川からの流出土砂減少」が新潟海岸の侵食要因として明記されていますが、そもそもこの大河津分水路は、上流や河口での洪水リスクを下げるために行われた工事です。つまり、県民の命や生業を守るために、治水工事を行い、その結果として、現在になって海岸浸食が発生しているわけです。この問題に「犯人」は存在しません。確かに、海岸浸食の発生源は過去の行政判断です。しかし、その行政判断は間違えていたと言えるでしょうか。私は、適切な判断だったと思うし、適切なプロセスを経た合意形成の下に行われた工事だったと思います。もはや、治水をして海岸浸食を許容すべきなのか、海岸浸食を止めるために治水を行わないのか、という二者択一の議論ではありません。その両方を守るためにどの程度の治水を行うのが良いかを考えたり、それによって海岸浸食がなるたけ進行しないような方法を模索したりする必要があります。
(3) まちかど学舎が育みたいネガティブ・ケイパビリティ

即答を要求される時代に、複雑な問題を前にして安易な解に飛びつかない胆力が、まちかど学舎が育みたい「ネガティブ・ケイパビリティ」です。私たちは「なんだかよくわからないこと」の連続の中で生きています。この「なんだかわからないもの」を「なんだかわからない」ままにとりあえず置いておく、それがネガティブ・ケイパビリティです。複雑な事態に対処できるようになるまで、判断保留に踏み止まる力です。

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